
9/10に発売されたクイーンのライブアルバム、『LIVE AT THE RAINBOW ’74』をついに買いました。
僕が買ったのは通常盤CD。
他にもDVD、BD、それらを含めたボックスセットなど、様々なラインナップがあります。
発売前からYouTubeのトレイラーを見てすでに分かっていたことですが、素晴らしいです。
素晴らしい、それしか言葉が見つかりません。
クイーンの正式音源として発売されているライブ盤は、中期と、後期に1枚ずつのみで、初期のライブ盤はありませんでした。
それらのライブ盤を含め、クイーンのアルバムは全部聞いたことはありますが、クイーンはやはりスタジオ盤の方が断然良いと思っていました。
当時クイーン自身もライブ向けの曲が少なくてライブが苦手だったと懐古していましたし、クイーンの魅力といえばライブでは再現不可能なほど多重録音に多重録音を重ねた「作品」としてのその完成度です。
クイーンといえば、最近の人たちの中では『I was born to love you』のイメージが強くスタジアム級ロックバンドという認識で通っていると思います。
またこの当時でもクイーンは軟弱なインテリバンドみたいなイメージがあり、ファン層もロックファンというよりは女の子人気の高いアイドルバンド的な扱いをされていたそうです。
当時、少年だった父親はクイーンを初めて聞いた時「すごいバンドだ!」と驚いたが、レッドツェッペリンやディープパープルなど硬派なハードロックが人気だった周りには、クイーンが好きだなんてとても恥ずかしくて言えなかったと言っていました。
本国イギリスでもハードロック崩れのグラムロックムーブメントの残党の小便ロックとこき下ろされるようなバンドでした。
(僕がクイーンファンとしての主観ではなく、客観的な目でフラットに見ても、どうしてそこまで言われたのかはよく分からないが)
とにかくクイーンは中途半端でパワーの弱いロックバンドだと思われていたのです。
確かにクイーンはお世辞にもワイルドでクールなロックバンドだとは言えません。それとはまさに対極のインテリ集団です。
ボーカルのフレディマーキュリーは、美術学校でデザインを学んだアーティスト。
ギターのブライアンメイは、天文学を研究して後に天文物理学博士号を取得し天文学の著書を出版。
ドラムのロジャーテイラーは、大学で生物学を専攻し、最終的には学科の理学士号を取得。
ベースのジョンディーコンは、電子系の大学を卒業しており機械関係のスペシャリストでバンドの機材を自作するほどの知識と腕を持っています。
クイーンがこき下ろされていたのは、もしかしたらこういった輝かしい功績を持ったインテリたちがロックをやってみた的なニュアンスで評価されていたのかもしれません。
いや、でもデビュー当時はこんな情報はそんなに出回っていないはずだな…
それを抜きにしても彼らにはそういうインテリ集団的な雰囲気が強かったのでしょう。
確かにそうかもしれません。
ロックバンドとはやはりアウトローなイメージがあるので、軟弱に見えることでしょう。
しかし、今回のこのライブアットザレインボー’74を聞いてその意識は変わりました。
ライブよりスタジオ録音アルバムのが良い?
インテリ野郎にロックは出来ない?
全くそんなことはないじゃあないか!
むしろライブのがかっこいい!
ズバ抜けた演奏力、センス溢れるアレンジ、そして圧倒的なパワー。
そう、クイーンは、グラムロック崩れでも、軟弱なインテリ集団でもないのです。
列記としたハードロックバンドなのです。
この音源がリアルタイムの74年に発売されていたらクイーンの評価は違ったものになっていたことでしょう。
父親も胸を張って「クイーンはすごいバンドだ!」と言えたことでしょう。
クイーンといえばやはりフレディマーキュリーの圧倒的な歌唱力が印象的ですが、このアルバムでも勿論その歌はいかんなく発揮されています。
このアルバムを聞いてつくづく思ったのですが、フレディマーキュリーとは本当に不思議な人です。
繊細だけどパワーがあり、耽美系だけどゴリラ。
彼の歌声も、決して変わった声ではないのですが、珍しい声です。
女性歌手のように美声なのだけど圧倒的なパワーがあるのです。
圧倒的なパワーがある女性ボーカリストはいますが、女性っぽい歌声でパワーを出せる男性ボーカルはなかなかいません。
また彼がカリスマ的なロックスターであるもう一つの要因はその顔だと思います。
後期は有名な短髪に口髭ルックでその口髭のインパクトにより分かりづらいですが、彼の顔は独特なのです。
それは彼の生い立ちが特殊なことに由来します。
彼はイギリス人ですが、生まれはアフリカのザンジバル。そして育ちはインド。彼がイギリスに来たのは17歳の頃です。
彼はペルシャ系インドの家系なのです。
つり目の大きな目に、細く高い鼻、頬骨とエラが張った骨格…まさにベルサイユのばらの登場人物のような顔立ちなのです。
この辺も日本の女の子たちの間で爆発的な人気を誇った要因の一つだと思います。
そんなフレディの魅力もいっぱいですが、今回特に驚いたのは楽器隊の音です。
ブライアンメイのギターの凄まじさたるや、凄すぎて笑ってしまうほどです。
後のメタルやオルタナやグランジなんて彼がもうこの時点でやっているではないかと思ってしまうほどです。
まずテクニックがすごい。これほスタジオ盤でも勿論分かっていたことですが、スタジオ盤は多重録音でどうやって弾いているのかが分かりづらい部分がありました。
しかし、このライブ盤では当然音は重ねられないので一本で弾いているのですが、こうやって弾いていたのか!という驚きの連続でした。
そして、音がすごい。
これは現代のリマスター技術に感謝する部分が多いですが、音圧がすごいのです。ギター音がデカイデカイ。
津軽三味線に影響を受けたと言われている独特のじょんがらギターはまるで機関車のようです。
次に、ドラムもすごいのです。
僕はもともとロジャーテイラーのドラムプレイが好きでした。
あの8ビートでスネアを叩く時にハイハットを少し開く感じとか、ドコドコ言うタムロールとか、よく跳ねるスネアとか、聞いててすごい気持ち良いのです。
このドラムもリマスター技術により、よりクリアに聞こえ、それによってよりパワーを感じるのです。
最後に、コーラスが素晴らしい。
ブライアンメイもロジャーテイラーも歌が上手いとは思ってましたが、ここまで歌唱力があるとは…
特にロジャーテイラー。
彼は基本的にドラムにしておくには勿体無いと思っちゃうほどの逸材です。
歌が上手すぎるのです。ロッドスチュアートと形容されるほどです。
顔も一番かっこよく、バンドを初めて髪を伸ばしてからは女とよく間違われたそうです。
スタジオ盤でも聖歌隊で鍛えられたという彼のコーラスはいかんなく発揮されており、地声からして比較的高くて4オクターブを出せるというフレディがボーカルのバンドなのに、高音はロジャーテイラーの担当です。
またブライアンも高い美声なので、フレディが低音を担当することが多いです。
歌声は美声のフレディとは対照的なワイルドなハスキーボイス。
これがすごく映えるのです。
フレディは元々喉が強い方ではなく、ライブでも喉を潰さないために低く歌ったりします。
そこでロジャーが活躍するのです。
ロジャーは喉が強いのか、スタジオ盤通りの高いキーで、金属ボイスで叫びまくります。
コーラスがクイーンサウンドの特徴の一つでもあると同時に、ライブでは再現し切れない部分が多いと思っていましたが、ここまでやれていたとは驚きました。
長くなってきたのでそろそろまとめに入りますが、今回ほどリマスター技術に感謝したのは初めてです。
そして、40年という長い時間こんな完成度の高いライブ音源を隠してきたクイーンに驚きました。
なるほど、リマスター技術が追いつくのを待っていたのか。
個人的にはクイーンIIに収録されている『フェアリーフェラーの神技』や、シアーハートアタック収録の『フリックオブザリスト』など、後々ライブでやることは無かった隠れた名曲が聞けたのが嬉しかったです。