エーブックスタッフの水野です。
先日、SF漫画の金字塔といわれている大友克洋の『AKIRA』を今更ですが読みました。
AKIRAは人気で、好きな漫画第一位にAKIRAを選ぶ人も多いので、
自分の中で所謂「王道」的なイメージで、天邪鬼な自分はあえて読んでいませんでした。
しかし、YouTubeでふとアニメ版AKIRAの動画を見て、とにかくその迫力に圧倒されたのです。
早速リサイクルショップで漫画を購入してきて、読みました。
まずボリュームがすごいです。
単行本全六巻と聞くと短く感じますが、一冊につきページ数が大体、
少ない巻で300ページ程度、多い巻で430ページ程度です。
普通の少年(及び少女)漫画の単行本ですと大体一冊につき180から多くて230ページ、
青年漫画の単行本ですと大体240ページくらいが相場です。
AKIRAは全六巻で2181ページですので、大体少年漫画の10巻から12巻ほどで、青年漫画だと10巻ほどで、およそ倍の巻数になります。
サイズも大学ノートと同じ大きさのB5サイズで、
雑誌と同じサイズで、その上雑誌より印刷がキレイですから迫力満点です。
僕は昔漫画家を目指していて、自分で漫画を描いていましたから、
単純な読み手ではなく、無意識に描き手側の目線で読んでしまいます。
そういった時に一番気になるのが画力です。
まず絵が見にくかったり、タッチに頼りすぎて雑だったり、
手を抜いていたりするのが分かったりするとその時点で、
その漫画への興味がなくなってしまうことが多いです。
また映画が好きだからか、話の構成だったり、コマ割りや演出が下手でテンポが悪く、
例えばショッキングな展開なのだが、あまりショッキングになっていなかったり、
やりたいことは分かるけど、イマイチそれを描ききれていなかったりするのもそうです。
ちょっと、何様目線だ・・・という感じですが、そういう観点から見ても、
このAKIRAは今まで読んできた漫画の中でもトップを行く漫画だと思いました。
圧倒的な画力に思わず息を呑みます。これは一目見れば分かることでしょう。
そして、コマ割りというかカット割りがすごいです。
手塚治虫は、従来のアメリカの風刺漫画や、四コマ漫画の影響下にあった漫画とは明らかに違う、日本の漫画というものを作り上げました。
その特徴の一つとして、静止画なのにその動きが伝わってくるという絵です。
キャラクターの動きを描くのです。
それが定着し、その描き方が漫画の描き方になっています。
しかし、大友克洋はそうではなく、動きの中の瞬間を切り取って絵に描くのです。
そのことにより、キャラクターの動きやスピード感とは別に、
躍動感だったり、空気感を描くことが出来るのです。
手塚治虫は生前、今の漫画の描き方は僕が考えた一つの手法でしかないから、早く新しい別の手法の漫画を読んでみたい・・・ということを言っていました。
僕はそれが大友克洋の漫画だと思いました。
さて、話をAKIRAに戻しまして、次に世界観も素晴らしいです。
まずこの漫画は1982年から1990年にかけて描かれた作品なのですが、
今読んでも古さを感じさせません。
たいてい、昔のSF作品などはファンタジー要素が強かったり、
またその当時に空想ですら考えられなかったような未来が、
今この現実にあったりするので、良くも悪くも時代を感じさせられます。
しかし、AKIRAは「本当にこうなってしまうのではないか?」というリアリティがあるのです。
物語の舞台は2019年で、東京オリンピックを翌年に控えたネオ東京なのですが、
この現実でも、偶然にも2020年のオリンピックの開催地は東京に決定しました。
物語の後半にはアメリカ軍も登場するのですが、実際にこうなったらこうなるんだろうな・・・と思ってしまいました。
キャラクターもみんなそれぞれ個性があって面白いです。
主人公である『金田』は15歳の(自称・健康優良)不良。
バイクチーム(暴走族)のリーダー。
運動神経抜群で、ヤンチャだが優しくて頭も良く、度胸がある、
まさにリーダーという男らしい男。しかし、どこか三枚目的なところもある。
金田のバイクは彼仕様に改造されており、彼以外はとてもじゃないが操作できない。
そのバイクチームの一員である『鉄雄』は、
幼少期はいじめられており、それを金田に助けられたことから友達になる。
今でもチームでは大人しい性格で、バイクの運転もあまり上手くなく、
チームの足を引っ張っていて、いつも金田に助けてもらっている。
『山形』は大柄でチームの特攻隊長。
ヤンチャだが、仲間に対しては義理堅く、また正義感が強いたくましい性格。
『甲斐』も金田のチーム内での一番のチビ。
チーム内ではまともな方の性格。チームの崩壊後も金田をサポートし続ける。
他にも反政府ゲリラであり物語のヒロインでもある『ケイ』、その仲間の『竜』と『チヨコ』。
ライバルバイクチーム「クラウン」のリーダーである『ジョーカー』。
軍の最高指揮官であり、AKIRAの秘密を知る『敷島大佐』。
などなど魅力的なキャラクターが多いです。
勿論ストーリーも最高です。
最高なのですが、この漫画を読んだことない人は是非読んでもらいたいので、
ストーリーに関しては一切触れないでおこうと思います。
AKIRAには1989年にアニメ映画も製作されました。
ストーリーは漫画版を縮小させた感じですが、
ありがちな漫画の方が断然素晴らしい、ということではなく、
アニメにはアニメの良さがあります。
作者自ら監督をしているので、再現度は当然高いですが、
動きもすごく滑らかで今のアニメと比べても(画質の違いはありますが)ほとんど見劣りしません。
音楽は、芸能山城組という世界の民族音楽を題材にするアーティストグループによるもので、アバンギャルドでかっこいいです。
やはり未来を意識しているのか、それとも趣味なのかは分かりませんが、
こういうところにポップスやロックや歌謡曲の主題歌を作ったりすると後々時代を感じさせてしまうのですが、そういうことをしないのが最高にクールです。
声優もキャラクターにあっており、また演技力も高く、それにストーリー展開も合わさり興奮を隠せません。
名台詞の多いこのAKIRAですが、僕が一番鳥肌が立ったのは、
序盤バイクチェイスの場面でトンネルの中で金田が叫ぶ「鉄雄ォォォォォォッ!」です。
この叫びにはいろいろな感情が入り混じっているような気がするからです。
とにかくこのバイクチェイスのシーンにはいきなり持っていかれます。
バックの音楽から聞こえる「金田、鉄雄、甲斐、山形」のコーラスが興奮を煽ります。
とにかくもっと体験していれば良かったと思わずにはいられない作品です。