巧みな構成と切ない話、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の三作


近所のGEOが旧作レンタル50円セールをやっており、近頃を見ていない日々が続いていたので、この機会にと思い、ドンっと借りてきました。
 
まず見たのが、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の映画です。
イニャリトゥ監督の初監督作品であり、ガエル・ガルシア・ベルナル主演(ちなみに彼も初主演)の映画『Amores Perros』。
長編二作目でショーン・ペン主演の『21Grams』。
そして、2006年カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した『Babel』。
今回見たのはこの三本です。というよりこの三本しかGEOに置いてませんでした。

三本とも群像劇であり、一つの映画につき、主に三人の主人公がいます。
最初は全く関係ない三つの話がやがて交差していきます。
 
 

最初に見たのが『アモーレス・ペロス』。
アモーレス・ペロスとはスペイン語で「犬のような愛」という意味だそうです。
アモーレス・ペロスは盲目的な愛を抱いている三人が主役です。
メキシコが舞台で、それぞれ三人が貧困層の若者オクタビオ、富裕層の大人バレリア、貧困層の老人エル・チーボと、それぞれの生活観が垣間見れるのも興味深かったです。
おそらく監督がこの映画のテーマとしたのが「思いやりの欠如」だと思います。
始まりは相手を想っての行動だったり気持ちだったのが、行き過ぎると最終的に自分の為でしかなくなってゆき、相手を傷つけてしまいます。
僕はこの映画で一番好きなストーリーはオクタビオの話です。
オクタビオは真っ直ぐで正義感が強い青年なのですが、この真っ直ぐな純粋さ、言い換えれば子どもっぽさが不幸なことにマイナスの効果をもたらしている。
なんというか彼は真っ直ぐすぎて、自分が間違っているとも思っていないのです。
それがガエル・ガルシア・ベルナルにすごくよくハマっていて、良かったです。
若い青年オクタビオは最後まで「相手のために尽くしている」というエゴを掲げ、それこそ何故自分がフラれたのか分かっていないままなのです。
またそれぞれのストーリーに犬が登場し、それぞれ間違った愛情表現をする主人公たちでも、犬だけは大切に思っており、愛しているのが何だか切ないです。
 
 

次に見たのが『バベル』。
当時新人であった菊地凛子と、日本を代表する俳優の一人である役所広司が出ており、日本でも話題になりました。
モロッコ、メキシコ、日本の三つの舞台で三人の主人公がいます。
モロッコ編は、モロッコに旅行へ来たリチャード・ジョーンズ(ブラッド・ピット)とスーザン(ケイト・ブランシェット)の中年夫婦が巻き込まれる銃撃事件。
メキシコ編は、そのジョーンズ夫婦の子どものベビーシッターとして雇われているメキシコ人の家政婦アメリア(アドリアナ・バラッザ)が夫婦の留守番中に彼らの子どもたちを巻き込んでしまった最悪の事態。
東京編は、ろう者の女子高生、綿谷チエコ(菊地凛子)が感じる孤独感と疎外感、それに不器用ながらも支えようとする父、綿谷ヤスジロウ(役所広司)。
この映画のタイトル『バベル』は旧約聖書に出てくる「バベルの搭」から取られたといわれています。
バベルの塔とは、人間が天まで届くバベルの搭を建てようとしたが、それを快く思わなかった神が、人々の話す言葉を別々の言語に変え、その結果人々は統制がとれず、人間は世界中にバラバラに散っていった、という話。
この映画『バベル』は言葉や心が通じないという世界で起こった事件がテーマとなっているようです。
僕はこの映画もアモーレス・ロペスと同じように「思いやりの欠如」がテーマなのかと思いましたが、自分の中では「思いやりの欠如」から生まれた「愚かな選択」が感じられました。
少しの不安は残しながらも「大丈夫だろう」という気持ちで選択したものが、最悪の事態になってしまうのです。
ただ、そういうテーマとして見ると東京編だけはちょっと独立したもののように感じられました。
この映画は見る人が何人かによっても見方が変わるのかもしれません。
 
 

そして、最後に見たのが『21グラム』。
実はこの三本の中で一番期待していなかったのですが、一番面白いと思いました。
一つの心臓を巡る、複雑な人間模様。
21グラムとは、魂の重量といわれています。
ベニチオ・デル・トロが最高です。
ベニチオ・デル・トロの役どころは、昔は刑務所を頻繁に出入りする輩だったが、現在は更生し敬虔なキリスト教信者となった中年です。
映画の冒頭で、彼が不良の青年にジェンガをやりながら説教するシーンがあるのですが、そこで言う「よく考えて選択しろ」という言葉がすごく印象的でした。
しかし、不良青年は誤った選択をし、ジェンガを崩してしまいます。
このシーンのデルトロがすごい怖く、いきなり印象的でした。
この映画にはデルトロが怖いシーンが多いです。
また、この映画では、結末が一つの三つのストーリーを、時系列がバラバラになって構成されています。
この構成が本当に上手いのです。
「このシーンさっきからちょいちょい挟んでくるけど何なんだ?」
「ん?さっきまでモジャモジャだったヒゲが無いからこのシーンは多分違う時期の話だ」
など、見ている最中は意味が分からないのですが、だんだんと一つずつ理解が出来ていき、それも物語が進めば進むほどその理解するスピードが加速してゆく。
それもおそらく狙ってそう構成されていて、見ている側としては最高に興奮するのです。
何というのでしょうか、例えばぐちゃぐちゃに絡まった三本の糸があって、最初は全然絡まってどこをどう引っ張ればほどけてゆくのかも分からない状態で、とにかく夢中になっていると、だんだんとほどけてゆき、最後の方はどんどんどんどん手に従ってスルスルとほどけてゆくのです。

『アモーレス・ペロス』『21グラム』『バベル』、三本とも面白かったです。
それぞれの話を単体で見たとしても十分に切ないストーリーなのですが、それが複雑に絡み合っており、それを巧みな構成によって展開されます。
単なる視覚的な刺激ではなく、話作り、構成力としての「見せ方」というものをすごく感じました。
 
イニャリトゥ監督の他の映画も見てみたいのですが、レンタルしているのかな・・・

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