スタッフの水野です。
僕の好きな漫画の中にバガボンドという漫画があるのですが、
そこから宮本武蔵という人間に興味を持ちました。
ちょっと前からテレビで宮本武蔵のドラマのCMが流れていて、ちょっと気になっていました。
その宮本武蔵を演じるのは木村拓哉。
正直、僕は期待と不安は半々でした。
2003年(もう11年前なのか・・・)に大河ドラマで『武蔵 MUSASHI』がやっていて、
その時は市川海老蔵(当時は市川新之助)が演じていまして、
彼の迫真の演技が、武蔵の破天荒なイメージに上手くあっておりました。
今回のキャスティングは全体的に原作の吉川英治のイメージより、
井上雄彦のバガボンドのイメージの方が近かったように思えました。
特に長年、武蔵のライバルであった吉岡家の二代目当主、吉岡清十郎が松田翔太というのはまさにバガボンドのあの吉岡清十郎を意識したものだと思います。
原作はどちらかというと厳格な感じの剣士でしたし。
かといってバガボンドにより過ぎているわけでもなく、
佐々木小次郎はどちらかというと正当な”謎の剣客”みたいなイメージだったと思います。
沢村一樹なのは意外でしたが、これが意外にも良かったです。
沢村一樹は身長も高く、スタイルも良いので、やはり様になっていました。
殺陣も良かったです。ちゃんと佐々木小次郎の魔剣「燕返し」を駆使していましたし、
何より華麗でした。しかも体がデカイからちゃんと強そうに見える。
小次郎の剣が良すぎたばかりに、武蔵の剣がイマイチ強そうに見えなかったですが、
おそらく武蔵の殺陣と小次郎の殺陣には差別化が図られていて、
小次郎の華麗な剣に対する、武蔵の野蛮な剣みたいな動きだったのでしょう。
地上波のテレビドラマなので、宮本武蔵のサクセスストーリーだったり、
武蔵とお通とのラブストーリーになるような気はしていましたが、
これは意外や意外な方向になっていきました。
宮本武蔵という人物自体がそういわれているので、
逆に言ったらこうなる展開を意外というのはおかしいのかもしれませんが、
物語の後半辺りから急に、仏教だったり人間の境地みたいな話になっていき、面白かったです。
最後の武蔵と小次郎の戦いはかなり良かったと思います。
名声や出世、そういったものの為の戦いではなく、
「その先に何があるのか知りたい」
という簡単な言葉で言うと好奇心ですが、
人間の境地を見るために戦うということが明確なテーマとなっていました。
その戦いは終始、静かな感じなのですが、
アドレナリンが出まくっているかのような演出で良かったです。
戦いの途中に、小次郎が武蔵にこう尋ねます。
「何か見えたか?」「分からん」
その会話が非常に印象的でした。
このドラマはこの台詞を最後に、そのあと何の説明もありません。
武蔵は小次郎の頭をかち割り勝利します。
その後、無言の武蔵の顔がアップになるのですが、
その表情(演技)が何ともいえないくらいに良かったのです。
期待と不安の両方を持っていた木村拓哉のキャスティングですが、
このシーンで、良かったな、と思えました。
何か先が見えたような表情にも見えましたし、
何もなくなったような表情にも見えたのです。
バガボンドの中で僕がかなりお気に入りの話で、
佐々木小次郎が関ヶ原の合戦跡で残党と戦う話があるのですが、
小次郎は猪谷巨雲という落ち武者と戦います。二人とも剣に取り憑かれた鬼です。
二人とも精神的にも肉体的にも限界がきており、殺さねば死ぬ、という極限の状態です。
しかし、斬り合う二人は次第に笑顔になってゆくのです。
言葉にするのは難しいですが、
この斬り合いの数分間、いや数秒間で、彼らは親友のようになるのです。
巨雲は「俺たちは抱きしめ合う代わりに、こうやって斬り合うんだな」と悟ったような気持ちになり、死にます。そして小次郎は泣くのです。
このテレビドラマの『宮本武蔵』の武蔵と小次郎は、
こういう奇妙な友情を覚えていたのだと思います。
二人とも剣の天才で、彼らは二人とも天下無双と謳われいました。
そんな二人が初めて、心から打ち解けられるような”対等”な存在に出会ったような感じなのです。
しかし、その二人は、抱きしめ合う代わりに斬り合うのです。
先ほど書いた、このドラマで武蔵の最後の表情が、
何か先が見えたような表情にも見えるが、何もなくなったような表情にも見えるのは、
そう思ったからかもしれません。
勿論、僕は命を懸けた死合い(試合)をしたことないですが、
人間の意識が膨張した先には、宇宙のビッグバンのように何かがあるのかも知れません。
改めて、宮本武蔵とは変わった人物だったんだなと思いました。
野蛮な面もあれば、策士の面もある、殺人鬼の顔もあれば、哲学者の顔もある。
すべてが彼自身による創作かも知れませんし、本当に奇妙な人間なのかも知れません。
これを機に、改めて彼について調べてみたくなりました。