エーブックスタッフの水野です。
アメリカの映画監督ジム・ジャームッシュの最新映画『Only Lovers Left Alive』を見てきました。
ジム・ジャームッシュといえば、今やインディーズ映画界の中ではカリスマ的なポジションに君臨しており、ミスター・ニューヨーク・インディーズ・ムービーといえば彼のことでしょう。
初期はモノクロに、マニアックなミュージシャンを俳優として起用しており、また淡々と風景を切り取ったような独特の撮り方が斬新で、一目で彼の映画と分かる画が特徴でした。
また、ニューヨーク・アンダーグラウンドの音楽界とも密接な関係にあり、音楽ファンの中でも彼のファンは多いです。
僕の中は彼の映画の中では、大学の卒業製作であり、彼の監督デビュー作の『Permanent Vacation』の混沌としており、またContortionとしており一番印象に残っていました。
中期の作品では『Dead Man』が好きです。この映画にはジョニー・デップが出ていますが、彼のファンには決してオススメできる映画ではありません。
ニール・ヤングが映画を見ながらギターで即興演奏して、それがそのままBGMとして使われており最高に渋くてかっこいいです。
近年では、彼独特の暗く寂しげで奇妙で不気味・・・といったイメージから少し変わっていっており、
良くも悪くも彼イコール初期のモノクロ作品といったイメージが抜けず、疎遠になったファンも多いのではないでしょうか。
今回の最新作である『Only Lovers Left Alive』は、
中部地方では、伏見ミリオン座でしかやっておらず、
名古屋からですと次に近いのが三重県の伊勢市まで行かないと見れません。
それも12/20~1/23の約一ヶ月の間に、一日一回しか上映されていません。
何でこんな限られたところでしかやらないのだろう?と不思議に思いました。
まず、ジム・ジャームッシュの新作が吸血鬼映画だと発表されたとき、
その理由がズバリ「吸血鬼映画は金になるから」という彼らしいといえば彼らしくて余計に見る気がそそられました。
近年、『The Twilight』シリーズの大ヒットにより、吸血鬼モノのラブストーリーが人気で、アメリカではティーンたちの間で、首筋に歯形のタトゥーを入れるのが流行ってしまうほどといわれています。
そんな中、ジム・ジャームッシュが「吸血鬼映画は金になるから」と言い放ち、作られた映画ですから、少し挑戦的な言葉にも聞こえました。
あらすじ
吸血鬼でありながら、どんな弦楽器でも弾くことができるミュージシャンとして活動中のアダム(トム・ヒドルストン)。アンダーグラウンドな音楽シーンに身を置いて人間たちと共存しているが、何かと自己破壊的な言動を取る彼らに対して複雑な思いを抱いていた。そんな中、何世紀も恋人として愛し合ってきた同じ吸血鬼のイヴ(ティルダ・スウィントン)が、アダムが暮らすデトロイトへとやって来る。久々の再会を楽しもうとする二人だが、イヴの妹エヴァ(ミア・ワシコウスカ)が現われる。
(Yahoo!映画より)
まず、これほど喉の渇く映画を見たは初めてでした。
映画館で飲み物を注文せずに見たのですが、物語が進むに連れ、喉が渇く渇く。
帰りにコンビニでトマトジュースを買ったのは言うまでもありません。
おそらく、この映画はそういう風に出来ているのだと思います。
まず、血がものすごく美味しそうに描かれており、
今までありそうになかった血液アイスも美味しそう。
こぼれた血が絨毯に染み込んでゆくシーンがあるのですが、それが砂漠に落ちた雫のようで、思わず指をくわえそうでした。
また、映画全体に漂う倦怠感、生きることに飽きた吸血鬼の倦怠感もそうです。
そして、それを表すかのようなアダムが作った曲・・・
半分寝ているかのような朦朧とした意識(これにはデッドマンを彷彿とさせられました)などなど。
すべてが作用しあったその結果、喉が渇くのです。
観客にこう思わせた時点で、この映画は成功したといっても過言ではないでしょう。
吸血鬼も所謂ゴシック風のイメージではなく、カジュアルといいますか、
ちゃんと現代に生きている感じが出ていて良かったです。iPhone持ってますし。
それにしてもティルダ・スウィントンのイヴ役は見事でした。
何よりもまず「吸血鬼って実在したらこういう感じなんだろうな~」と思わせられました。
また”夜”が良かったです。
吸血鬼は太陽に当たると死にますから、夜のシーンしかないのは当然といえば当然ですが、
彼の映画の夜の雰囲気は、どこか孤独で、寂しげで、不気味で、奇妙なのです。
この映画では特にそれが際立っていたように思います。
単純に時間帯の夜ではなく、
もっと色んな意味を含んだ”夜”って感じがして良かったです。
吸血鬼映画の中でもいろいろなテーマがあります。
モンスターとしての吸血鬼、吸血鬼と人間の戦い、吸血鬼と人間の恋愛、人間を殺してしか生きられない吸血鬼の苦しみ・・・などなど。
それらの中でも、この映画は異質でした。
永遠に二人で生きていかなければいけない、吸血鬼同士の恋愛。
吸血鬼は不老不死なのにも関わらず、生きていけない時代。
吸血鬼という要素を除いたとしても成立してしまいそうなのは、
僕らの心が貧しいのだからかもしれません。
とにかく、ジム・ジャームッシュファン、吸血鬼ファン、両方ともが楽しめる映画だったのではないでしょうか。
物凄くロマンチックではありますが、ドラマチックではない。
ほどよく淡々としており、それが何世紀にも渡り生き続ける吸血鬼の心を表しているようにも思えて、良かったです。
そのひっそりとしている感じが吸血鬼であり、
今思えば、上映数が少ないのもひっそりとしていて、何だか面白いなと思えました。
2014年、最初に劇場で見た映画がこの『Only Lovers Left Alive』で良かったです。